「ペトルーシュカからの3楽章」原曲と比較する
ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3楽章」というと、難曲としても有名な作品です。
ざっくりしたストーリーは知っていても、原曲を聴いたり、あるいはバレエを見たことはない、という人も多いはずです。
というわけで、原曲(バレエ)をベースに、ピアノ版との対応を整理してみました。
目次
- 第1場 謝肉祭の市(原曲) - 第1楽章 ロシアの踊り(ピアノ版)
- 第2場 ペトルーシュカの部屋(原曲) - 第2楽章 ペトルーシュカの部屋(ピアノ版)
- 第3場 ムーア人の部屋
- 第4場 謝肉祭の夕暮れ(原曲) - 第3楽章 謝肉祭の夕暮れ(ピアノ版)
第1場 謝肉祭の市(原曲) - 第1楽章 ロシアの踊り(ピアノ版)
第1場は謝肉祭の陽気な雰囲気の「群衆」から始まります。
そして音楽が盛り上がったところで、不思議で神秘的な雰囲気の「人形使いの小屋」になります。
人形使いが「ペトルーシュカ」「バレリーナ」「ムーア人」の3体の人形に命を吹き込むと、人形が踊り出します。
ピアノ版の第1楽章である「ロシアの踊り」はこの部分です。
原曲のオーケストラでもピアノパートはかなり目立っています。
第2場 ペトルーシュカの部屋(原曲) - 第2楽章 ペトルーシュカの部屋(ピアノ版)
「ペトルーシュカ」では場面の転換で打楽器の強烈な打撃音が数秒間続くのが特徴ですが、「ロシアの踊り」の後、打撃音が続いて第2場の「ペトルーシュカの部屋」になります。
第2場の音楽は、ピアノ版の第2楽章「ペトルーシュカの部屋」にそのまま使われています。
第2場でもピアノパートは見せ場が多いです。
第3場 ムーア人の部屋
第3場はピアノ版には一切使われていません。
アラブ風の音楽である「ムーア人の部屋」および優雅な雰囲気の「バレリーナの踊り」「ワルツ」の3曲からなりますが、ピアノ編曲に向かないというのも理由でしょう。
終盤ではムーア人とバレリーナが踊っているところにペトルーシュカが乱入してきて不穏な雰囲気になりますが、そのまま第4場に続きます。
第4場 謝肉祭の夕暮れ(原曲) - 第3楽章 謝肉祭の夕暮れ(ピアノ版)
第4場は複数のセクションからなりますが、ピアノ版の第3楽章「謝肉祭の夕暮れ」は、このうち一部および終盤をカットしたものになります。
冒頭
謝肉祭の明るい雰囲気で幕を開けます。
ピアノ版では有名な三重音トリルが登場します。
乳母の踊り
「乳母の踊り」はA-B-Aの形式になっています。
Aは流麗なメロディーが特徴です。(画像のレガートが書かれているメロディーの部分)
Bでは楽しげなメロディーが登場し、何回か技巧的に変奏されます。
熊を連れた農夫の踊り
ピアノ版では省略されています。
どっしりしたテンポの曲なため、ピアノ編曲しても映えないという理由でしょうか。ちなみにギレリスはこの部分も演奏しています。
行商人と二人のジプシー娘
この部分はA-B-A-Bという構成になっています。
Aは比較的ゆったりした音楽です。ピアノ版では伴奏にかなり音を詰め込んでいますが、左手のオクターブがメロディーです。
対照的にBは切迫感のある音楽となっています。(画像の Piu mossoより先)
馭者と馬丁たちの踊り
イ長調に転調し、一気に明るい雰囲気になります。
A-B-Aの構成ですが、Bは乳母の踊りのメロディーがそのまま使われています。(画像のハ長調に転調してから先)
仮装した人々
調性感が希薄になり、不穏な雰囲気になります。
この部分では冒頭のメロディーが再登場します。ピアノ版では両手の交互オクターブで編曲されており、聴かせどころの一つです。
ピアノ版では「仮装した人々」の最後からピアノ版独自の短いコーダに突入し、ハ長調と嬰ヘ長調の和音を組み合わせた「ペトルーシュカ和音」を鳴らして終わります。
「ヴォカリーズ」 ピアノ独奏のための編曲まとめ
ラフマニノフの「ヴォカリーズ」は「14のロマンス Op.34」という歌曲集の最後の曲ですが、様々な楽器のための様々な編曲が存在しています。
今回はいくつかあるピアノ独奏のための編曲を紹介していこうと思います。
目次
アラン・リチャードソン編
個人的にはこの編曲がイチオシです。
見た目に難しい箇所はありませんが、ポリフォニックに書かれているのが特徴です。また、平均的な日本人の手のサイズだと掴むのが厳しい箇所がかなり多い印象ですが、テンポが速い曲ではないので、アルペジオにすることで解決できる箇所も多いでしょう。
ちなみにリチャードソンはスコットランドの作曲家で、編曲以外にも様々な作品を残しています。
参考: Alan Richardson (composer) - Wikipedia
コシチュ・ゾルターン編
「ヴォカリーズ」はAABBA'の形式ですが、この編曲はAおよびBの部分は繰り返しになっており、A'が高音域のアルペジオを使い見た目に派手なことが特徴です。正直、この曲にこのキラキラしたアルペジオは不似合いな気もしますが...。ちなみに、繰り返しをカットして3分半程で弾く人もいます。
コシチュ・ゾルターンは残念ながら2016年に亡くなられましたが、ハンガリーを代表する世界的なピアニストでした。
アール・ワイルド編
アール・ワイルドはアメリカのピアニスト。ラフマニノフの歌曲などをはじめとして、非常に多くの編曲作品を残しています。
この編曲の特徴は、様々な技巧が使われピアニスティックなことでしょう。それでいながら、原曲の美しい雰囲気を壊すことは決してなく、名編曲であると言えるでしょう。
ダニール・トリフォノフ編
トリフォノフは2010年のショパンコンクール第3位、2011年のチャイコフスキーコンクール優勝などを皮切りに、現在でも世界的に活躍しているピアニストですが、近年では編曲や作曲なども行っています。
ヴォカリーズのピアノ編曲は、原曲と同じ嬰ハ短調のものが多いですが、この編曲は変ロ短調に移調されており、なおかつ、メロディーの音域が低めなのも特徴的です。
その結果、落ち着いた雰囲気の編曲となっており、トリフォノフのセンスが光っています。
ちなみにトリフォノフの編曲も短いバージョンが存在します。
繁田卓也編
原曲に忠実で、非常にシンプルな編曲です。派手な編曲を知ってから聴くと、改めてこの曲の素晴らしさを感じられると思います。
ちなみに吹奏楽やクラリネット重奏のための編曲も書かれているようで、全てIMSLPで見ることが可能です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
冒頭にも書きましたが「ヴォカリーズ」はピアノ独奏だけでも多くの編曲があり、他の楽器も入れると本当にたくさんの編曲があります。
この名曲を、様々な編曲で楽しんでいただければ幸いです。
シマノフスキの「ナウシカア」と元になった物語について
カロル・シマノフスキ (Karol Maciej Szymanowski, 1882~1937) は、おそらくポーランドではショパンに次いで有名な作曲家でしょう。
この記事では、シマノフスキの「メトープ」の第3曲「ナウシカア」についてご紹介します。
シマノフスキについて
シマノフスキの作品は4つの時期に大別され、作風はそれぞれの時代で全くと言っていいほど違います。ショパンやスクリャービンの影響から出発した第1期。ドイツ的で硬質な作風の第2期。印象主義的な作風の第3期。そして、ポーランドの民族音楽の影響を受けた第4期です。生涯を通じて作風を大きく変化させた作曲家というと、有名どころではスクリャービンやラヴェルなどが思いつきますが、それを上回るほどの変遷をしているように感じます。
そのうち第3期には「シマノフスキの3M」と言われる3つの代表作、すなわち、ピアノのための「メトープ(Metopy)」と「仮面劇(Maski)」、ヴァイオリンとピアノのための「神話(Mity)」などが作曲されました。
「メトープ」について
「メトープ」は「セイレーンの島」「カリュプソ」「ナウシカア」の3曲からなる組曲で、いずれも紀元前8世紀ごろの詩人ホメロスによる英雄譚「オデュッセイア」に登場する女性の名前です。「オデュッセイア」における登場順とは違いますが、時系列上では登場する順番もこの通りです。
私は「ナウシカア」のみ過去に演奏したことがあり、その際に「オデュッセイア」を実際に読んだので、この曲のもとになった物語をご紹介します。
「オデュッセイア」のナウシカアが登場する部分の内容
ギリシアとトロイア(現トルコ)の戦争はトロイア戦争と呼ばれ、約10年にわたって続きました。トロイアを攻め落とした英雄オデュッセウスは、祖国であるイタキ島(現ギリシャ領。本土中部の西側の海域に浮かぶ島)へと戻る途中で海神ポセイドンに見つかってしまい、嵐を起こされてしまいます。というのも、オデュッセウスら一行は一つ目巨人ポリュペモスが住む国に立ち寄った際に彼に捕まってしまい、酒に酔わせて目を潰すことで何とか脱出していたのですが、ポリュペモスは海神ポセイドンの一人息子で、そのせいでオデュッセウスはポセイドンの怒りを買っていたからです。
漂流し、部下を全員失ったオデュッセウスは、女神カリュプソが住むオーギュギアー島(現ゴゾ島、マルタ島の北西6kmに浮かぶマルタ共和国の島)に流れ着きます。「オデュッセイア」の物語は、彼がカリュプソに囚われて7年間が経ったところから始まります。彼が囚われて8年目になろうとする頃、気の毒に思った神々によって彼はカリュプソのもとから旅立つことを許され、筏に乗って祖国のイタキ島を目指します。
オデュッセウスの筏は順調に進んでいきます。ですが彼に恨みを持つ海神ポセイドンに再び見つかってしまい、またしても嵐を起こされてしまいます。筏は崩壊しながらも、彼は1本の木にしがみついて何とか漂流を続け、スケリエ島(現ギリシャ領。主要な島の中では最も西北に位置)の浜辺に流れ着き、そこで疲れから深い眠りに落ちてしまいます。
少し時が経ち...。スケリエ島のアルキノオス王の娘であるナウシカアは、侍女たちとボール遊びをしていました。そこに、目を覚ましたオデュッセウスが助けを求めに現れます。一糸まとわぬボロボロの姿で現れた彼を見て侍女たちは逃げ出してしまいますが、ナウシカアは彼の話を聞き、着るものを与え、城へと案内します。ナウシカアの父、アルキノオス王も彼を歓迎し、ナウシカアの気持ちも察した彼は、ナウシカアと結婚してこの国に残ってくれることを望むようになります。
その日の夜、歓迎会が開かれます。オデュッセウスもスポーツ大会に参加し、円盤投げで優勝するなど、圧倒的な強さを示します。ですが、続いて行われた宴会で、吟遊詩人が「トロイアの木馬」の話を題材に歌を歌い始めると、オデュッセウスは月日の流れを感じて祖国を懐かしみ、涙を流します。というのも、「トロイアの木馬」、すなわち、巨大な木馬の中に潜んでそれをトロイアの本拠地に運び込ませ、トロイア人が寝静まった頃に木馬から出てトロイア人を皆殺しにする、という戦略は、オデュッセウスが考案したものだったからです。
それを見たアルキノオス王はわけを聞きました。そしてオデュッセウスは、アルキノオス王に素性を明かします。彼がトロイア戦争の英雄であること。ポセイドンの怒りを買って漂流し、カリュプソが住む島に幽閉されていたこと。ようやく祖国に帰ることができたものの、再び漂流してこの島に流れ着いたこと。そして、祖国には彼の帰りを待つ家族がいること...。アルキノオス王はその話を聞き、オデュッセウスを祖国に返すことを約束します。
(※ちなみに、この過去話の中で、第1曲「セイレーンの島」の元ネタとなった話も語られます。)
そして翌朝...。オデュッセウスは祖国のイタケに旅立つことになりました。別れに際してナウシカアは、悲しみを胸に秘めながらも、「国へ帰っても、いつか自分のことを思い出して欲しい」という歌を送り、彼を送り出します。そしてオデュッセウスは2日後に、20年ぶりにイタケの地に帰還することができたのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。曲に話を戻しますと、「ナウシカア」は、「少女の切ない片思い」がテーマとなっている曲のように感じます。また、第2曲「カリュプソ」の次の曲として第3曲に置かれているのは、オデュッセウスを夫にするために7年間も幽閉したカリュプソとの、人格の対照的な差を浮き彫りにするためでもあるでしょう。
地中海旅行を通してその文化に深く感銘を受けたシマノフスキは、非常に精緻で斬新な手法を以って、この世界観を音楽として表現しました。難解な作品ではありますが、この作品に興味を持ってくださる方がいらっしゃれば幸いです。
メトネルのオススメのピアノ曲を紹介
目次
はじめに メトネルの作品の全容について
メトネルの作品はジャンルが偏っているのが特徴で、
それでは作品番号順に、いくつかオススメの作品を紹介したいと思います。
ピアノソナタ第1番 Op.5 ヘ短調
全4楽章、約30分と長いので、
おとぎ話 Op.20-1
4つのおとぎ話 Op.26
3つの小品 Op.31
第1曲「即興曲」が私のイチオシです。もはや、この曲を紹介するためにこの記事を書いたと言っても過言ではありません。変奏曲の形式で書かれた、
忘れられた調べ 第1集 Op.38, 第2集 Op.39, 第3集 Op.40
イチオシは第1巻から第3曲「祝祭の踊り」です。
ちなみに、
6つのおとぎ話 Op.51
第1曲は、メトネルらしい軽快さとスピード感のある作品で、個人的には「おとぎ話」というタイトルの通りの、物語性のようなものを感じる作品です。
イ長調で書かれた、優しく明るい雰囲気の第3曲も人気の作品で、単曲で演奏される機会も多いようです。
連打を多用して滑稽な雰囲気の第6曲も、
番外編 ヴァイオリンソナタ第3番 ホ短調 Op.57 「エピカ」
私はピアノ独奏曲以外のことは全くわからないのですが、聴いてみて、なんとなく素敵な曲だな、と思ったので紹介しました。
ちなみに「エピカ」とは「叙事詩」という意味で、「おとぎ話」にも通じるような要素を感じました。
ラモー=ゴドフスキー 「タンブーラン」
柏木俊夫 「芭蕉の奥の細道による気紛れなパラフレーズ」
柏木俊夫(1912~1994)という邦人作曲家の「芭蕉の奥の細道による気紛れなパラフレーズ」という作品について紹介したいと思います。
目次
- 作品の特徴
- 楽譜と音源
- 第1曲 「草の戸も住み替はる代ぞ雛の家」
- 第2曲 「行く春や鳥啼き魚の目は涙」
- 第3曲 「入りかかる日も糸遊の名残かな」
- 第4曲「あらたふと青葉若葉の日の光」
- 第5曲「野を横に馬ひきむけよほととぎす」
- 第6曲「落ち来るや高久の宿のほととぎす」
- 第7曲「卯の花をかざしに関の晴着かな」
- 第8曲「風流のはじめや奥の田植えうた」
- 第9曲「笈も太刀も五月にかざれ紙幟」
- 第10曲「夏草やつはものどもが夢の跡」
- 第11曲「五月雨の降りのこしてや光堂」
- 第12曲「閑さや岩に沁み入る蝉の声」
- 第13曲「五月雨をあつめて早し最上川」
- 第14曲「暑き日を海に入れたり最上川」
- 第15曲「終宵秋風聞くや裏の山」
- 第16曲「散る柳あるじも我も鐘を聞く」
- 第17曲「荒海や佐渡に横たふ天の河」
作品の特徴
この作品は1952年のジェノヴァ国際作曲コンクールで入選した作品で、柏木俊夫の作品の中では代表的な(少なくともピアノ曲の中では)作品のようです。
17曲からなる作品で、全体で50分程度。各曲のタイトルが松尾芭蕉(または曽良)の俳句となっているのが特徴で、最後の曲以外は、芭蕉の辿った道のり通りの曲順になっています。
そのため季節が次第に春から秋へと進んでいくので、チャイコフスキーの「四季」やパルムグレンの「太陽と雲」に似た雰囲気も感じられます。
楽譜と音源
楽譜は音楽之友社が受注生産で取り扱っています。私は桐朋学園大学附属図書館で借りたものをコピーしました。
音源は迫昭嘉さんと浦山純子さんが全曲の録音を行なわれているほか、守山薫さんがリサイタルで第1,5,6,10,15,17曲を演奏されたものがCDとして発売されています。ちなみに私も東京大学ピアノの会の二月演奏会(2018年)で第1,5,6,15,17曲を演奏したのですが、抜粋箇所がかなり被ったのは偶然です。また花岡千春さんは邦人作品を集めたCDにおいて、第1,5,8,15曲を録音されています。
それでは1曲ずつ説明していこうと思います。Youtubeなどに音源がないため、私が演奏したものに関しては演奏動画を紹介させていただきます。
第1曲 「草の戸も住み替はる代ぞ雛の家」
芭蕉が旅立ちに際して詠んだ句。季語は「雛」で春。ハ長調で書かれており、流麗なアルペジオに乗ってシンプルなメロディーが奏でられます。時折意表をついたような和声が登場するのが面白いです。出発前のワクワク感のようなものを感じます。
第2曲 「行く春や鳥啼き魚の目は涙」
打って変わって、変ロ短調で書かれた重たい感じの曲で、旅立ち直後の、なんとなく不安でメランコリックな心情が重ねられているような気がします。和風なメロディーが素敵です。
第3曲 「入りかかる日も糸遊の名残かな」
「糸遊」というのは陽炎のことで、春の季語です。2小節おきに挿入される、カデンツァのようなアルペジオが印象的。メロディーらしいメロディーが頭に残らず、どことなく捉えがたいような印象のある曲です。
第4曲「あらたふと青葉若葉の日の光」
夏の季語「若葉」が使われ、ここから夏になります。栃木県の日光で詠まれた句で、「日の光」は日光という地名ともかけられています。ト長調で書かれた明るい雰囲気の曲で、キラキラした右手の高音域のアルペジオが特徴的な、光に溢れた作品です。
第5曲「野を横に馬ひきむけよほととぎす」
馬が走っているのを模したような一貫したリズムに乗って進んでいく、軽快な曲です。第5曲と第6曲は那須で詠まれた句で、ともに夏の季語である「ほととぎす」が使われています。
第6曲「落ち来るや高久の宿のほととぎす」
自由で即興的な曲で、鳥の鳴き声を模したような連打とアルペジオが印象的です。調性の掴みづらい不思議な和音が多用されているのも特徴的です。
第7曲「卯の花をかざしに関の晴着かな」
この曲は芭蕉ではなく、弟子の曽良が白河の関で詠んだ句です。変イ長調で書かれた、付点のリズムが多用された作品で、明るく軽やかな雰囲気が印象的です。
第8曲「風流のはじめや奥の田植えうた」
第7曲に引き続き、明るい雰囲気の作品です。重厚な和音が特徴的です。この辺りから白河の関を越え、陸奥(現在の東北地方)へと入っていきます。
第9曲「笈も太刀も五月にかざれ紙幟」
かなりピアニスティックに書かれた作品です。ショパンのエチュードOp.25-3に似た感じのリズムが印象的。ちなみに左手の音形はショパンのプレリュードOp.28-8と全く同じです。
第10曲「夏草やつはものどもが夢の跡」
奥州藤原氏が栄華を極めた平泉も、今や夏草が茂るだけ、そういった、なにか虚しさや儚さのようなものを感じる句です。嬰ハ短調で書かれた、暗くも味わい深い作品です。途中のカデンツァのような部分は印象的です。
第11曲「五月雨の降りのこしてや光堂」
光堂とは中尊寺金色堂のこと。右手のアルペジオに乗って左手でメロディーを奏でます。イ長調で書かれていますが、他の作品と同様、面白い和声進行をする箇所も多いです。明るく穏やかな曲調の作品です。
第12曲「閑さや岩に沁み入る蝉の声」
句の方はかなり有名でしょうか。ちなみにこの句だけでWikipediaの記事があります。曲を通して一貫するリズムと、バスの響きが印象的な作品です。冒頭がドビュッシーの「グラナダの夕べ」に似ていると感じるのは私だけでしょうか。
第13曲「五月雨をあつめて早し最上川」
急流として知られる最上川の激しさを詠んだ句で、それを模したような急速で技巧的な曲となっています。この句、この曲の音形には一見似合わないように思える嬰ヘ長調という調性を持ってきたことで、明るく楽しい曲想になっています。
第14曲「暑き日を海に入れたり最上川」
同じく「最上川」が使われていますが、こちらは打って変わって全体的に静かな曲です。前者は最上川の激しさ、後者は涼しさを詠んだような句であり、それが曲にも反映されています。季語は「暑き日」で夏ですが、次の曲から、季節は秋になります。
第15曲「終宵秋風聞くや裏の山」
第7曲と同じく曽良が詠んだ句です。曾良は体を壊して途中で帰ることになり、その道中に⽯川県の全昌寺に泊まり、この句を詠みました。曲全体を通して⾼⾳域のアルペジオが多用されており、芭蕉と別れた寂しさを反映するかのような、繊細で寂寥感の強い曲です。
第16曲「散る柳あるじも我も鐘を聞く」
フラットの多い変ト長調で書かれた、落ち着いた雰囲気の作品です。音数は少なく自由で間の多い曲で、和風なロマンチシズムを感じます。
第17曲「荒海や佐渡に横たふ天の河」
佐渡島で読まれた句です。季語は「天の河」で秋。印象派⾵の曲が続く中、⼀転してロマン派的な雰囲気に転じることなどから、作曲者が明⽰的に「終曲」として持ってきたことが伺える曲です。荒波を模したかのようなアルペジオに乗って、息の⻑い旋律が奏でられます。ホ短調で書かれていますが、転調を重ねる中で多用な表情を見せます。曲全体を締めくくるにふさわしい、ダイナミックな曲です。
長大な上に有名でもない作品ですが、この作品に少しでも興味を持っていただいた方がいらっしゃれば幸いです。
Hamelin Society Grand Concert 2019 - Program -
今日はアムラン会大演奏会が待ちきれないオタクの皆さんのために
なんと、、、リンク付きでほぼ全曲紹介しちゃいます〜〜〜!
曲数多過ぎてどうかしてるので早速紹介に入っていきます!
尚、順番は所々変えてあるのでお気をつけて!
第1部:イギリス企画 (佐藤馨 Kaoru.S / 細谷拓海 Takumi.H / 白波瀬優 Yu.S / 近藤遼河 Ryoga.K)
T. Tallis
W. Byrd
J. Bull
J. Dowland = P. Warlock
Forlorn Hope Fancy
G. Farnaby
O. Gibbons
E. Elgar
F. Delius = P. Warlock
Intermezzo and Serenade from 'Hassan'
S. Coleridge = Taylor
Deep River from '24 Negro Melodies', Op.59 No.10
Andante from 'Valse Suite "Three-fours" ', Op.71 No.2
C. Scott
Lotus Land from 'Two Pieces', Op.47 No.1
F. Bridge
Heart's Ease from 'Three Lyrics', H.161 No.1
Ecstasy from 'Three Poems', H.112 No.2
K. S. Sorabji
Hindu Merchant's Song from 'Three Pastiches', KSS.31 No.1
B. Britten
Nocturne from 'Sonata Romantica', No.2
K. Leighton
Andante Sostenuto from 'Sonatina No.2', No.2
H. Blake
Serioso from 'Lifecycle', Op.489 No.19
M. Finnisy
My Love Is Like a Red Red Rose
G. Jackson
第2部(川畑哲佳 Tetsuyoshi.K / 後藤椎 Shii.G / 渡邊貴弘 Takahiro.W)
Marc-André Hamelin
My feelings about chocolate
A. Casella
Richard Strauss from 'A la manière de ...', Op.17 No.5
O. Messiaen
Première communion de la Vierge from 'Vingt Regards Sur L'Enfant Jésus', No.11
F. Liszt
La Campanella from 'Études d'exécution transcendante d'après Paganini', S.140 No.3
Arpeggio from 'Études d'exécution transcendante d'après Paganini', S.140 No.4
La Chasse from 'Études d'exécution transcendante d'après Paganini', S.140 No.5
G. Cziffra
第3部(近藤正太郎 Shoutaro.K / 森浦智也 Tomoya.M / 方大樹 Daiki.K)
E. Melartin
Piano Sonata 'Fantasia Apocaliptica', Op.111
D. Melkikh
Piano Sonata No.2 'Sollevazione', Op.11(1923) (Score)
M. Ravel
Scarbo from 'Gaspard du la nuit', M.55 No.3 (1908-9)
Feux Follets from 'Études d'exécution transcendante', S.139 No.5
第4部(中村優太 Yuta.N / 村松海渡 Kaito.M / 高橋希実 Nozomi.T)
C. Debussy
Pour les Sonorités opposées from '12 Etudes', L.136
Marc-André Hamelin
Minuetto from '12 Etude in all the minor keys', No.11
F. Chopin
Winter Wind from '12 Etudes', Op.25 No.11
M. Akira (三善晃)
R. Yedidia
F. Liszt
Eroica from 'Études d'exécution transcendante', S.139 No.7
'Études d'exécution transcendante', S.139 No.10
Chasse Neige from 'Études d'exécution transcendante', S.139 No.12
第5部(若狭希洋 Kihiro.W / 伊藤朱香 Ayaka.I)
C. V. Alkan
Saltarello from 'Sonata de concerto', Op.47 mov.2
S. Toshinao (佐藤敏直)
黄と黒の季節 from 'ピアノ淡彩画淡水画帖', No.2(1977)
茶畑のある風景 from 'ピアノ淡彩画淡水画帖', No.8(1986)
笹の絨毯は北海にすべる from 'ピアノ淡彩画淡水画帖', No.10(1986)
N. Medtner
Sonata Tragica from 'Forgotten Melodies', Op.39 No.5
第6部(森大輔 Daisuke.M /本荘悠亜 Yua.H / 奥野周平 Shuhei.O)
Kazakh folk song = А.Толыкпаева
E. Bagdasarian
'24 Preludes', No.2 No.6 No.8 No.9 No.18 No.23 No.24
C. Chaminade
A. Lourié
D. Shostakovitch
'24 Preludes and Fugues', Op.87 No.15
C. Trenet = A. Weissenberg
Marc-André Hamelin
'Erlkönig' after Goethe from '12 Etude in all the minor keys', No.8
F. Liszt
Reminiscences de Norma, S.394 (1841)
第7部(橋本周平 Shuhei.H / 石神一貴 Kazuki.I / 伊藤圭祐 Keisuke.I / 内海悠磨 Yuma.U)
F. Chopin
The Wish from 'Polish Songs', Op.74 No.1
Spring from 'Polish Songs', Op.74 No.2
F. Liszt
'Hungarian Rhapsody', S.244 No.7
A. Scriabin
J. Scriabin
S. Feinberg
A. J. Kernis
以上となります。長い...!
(文責:近藤遼河)