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ブルーメンフェルト入門

みなさんはブルーメンフェルトという作曲家をご存知でしょうか? 今日はこの忘れられた天才について紹介していきたいと思います。

フェリックス・ミハイロヴィチ・ブルーメンフェルト(Felix Mikhailovich Blumenfeld)は、1863年ウクライナ中央部のコヴァレフカに生まれました。両親はフランス語と音楽の先生をしており、シギズムンドとスタニスラフという二人の兄からピアノや作曲を習って育ちました。その後サンクトペテルブルク音楽院に進学したブルーメンフェルトは、作曲をリムスキー=コルサコフに、ピアノをアントン・ルビンシテインに師事しました。同校を主席で卒業した後、そのまま音楽院の教授を務めましたが、学生運動に伴う大学当局と教授間とのトラブルをきっかけに教授職を辞任し、マイリンスキー劇場の常任指揮者に就任しました。そして、ロシア5人組の作品やスクリャービン交響曲ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』などの初演を手掛け、1908年にはパリでムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』の初演を担当し大成功を収めました。ロシアに戻った彼はキエフ音楽院に赴任、後に同校の院長も務めました。

キエフ音楽院時代は彼の指導者としての才能が遺憾無く発揮された時代と言えるでしょう。彼の指導下からはシモン・バレルや、ゲンリフ・ネイガウス(ハインリヒ・ノイハウス)、そしてウラディミール・ホロヴィッツなど多くの優れたピアニストが生まれました。彼の作曲家としての名は死後忘れ去られてしまいましたが、そのピアニズムは門下のピアニストたちによって脈々と受け継がれていったと言っても過言ではないでしょう。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、早速彼のピアノ作品を紹介していこうと思います。

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最初にご紹介するのは『練習曲「海にて」Op.14』です。暗雲垂れる冬の海の荒波を描いたかのような作品ですが、まだ主題や構成には熟れていない感じもします。個人的には、ブルーメンフェルトと同じウクライナ出身の画家、アイヴァゾフスキーの『黒海』という作品が思い浮かびます。

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次にご紹介するのは『左手のための練習曲 Op.36』です。ブルーメンフェルトのピアノ曲の中ではおそらく最も有名な作品だと思います。前半生はヴィルトゥオーゾとして活躍した彼のピアニストとしての才能をフルに活用しつつも、それでいて技巧が音楽としての美しさを損なっていないロマンティックな作品です。ちなみにゴドフスキーに献呈されています。

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せっかくなのでブルーメンフェルトの弟子、シモン・バレルによる録音も。

この他にも『24の前奏曲 Op.17』や『演奏会用練習曲 Op.24』、『エチュード=ファンタジー Op.48』など技巧的な作品を数多く残しており、師であり、またロシアのコンポーザーピアニストの先駆けであるアントン・ルビンシテインの影響と見てまず間違いないでしょう。このロシアのコンポーザーピアニストの系譜は、プロコフィエフスクリャービンラフマニノフへと継承されていきます。

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次は『2つの即興曲 Op.45』です。これは私の勝手な分類ですが、作品番号54まである彼の作品は前期・中期・後期の3つに分類されると考えています。そしてこのOp.45を書き上げた後、ブルーメンフェルトは彼のそれまでの楽業の総決算的作品である『幻想ソナタ Op.46』を作曲します。ここから彼の後期作品が生み出されるのですが、驚くことに彼の作風(特に和声)はスクリャービンやロスラヴェッツらに近い方向へと進みます(これは、ストラヴィンスキープロコフィエフが晩年に古典的な作風へ回帰していったのとは対照的です)。

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後期ブルーメンフェルトの代表作『2つのドラマティックな楽章 Op.50』から第1曲です。前期・中期の正統ロマン派的な作風から離れて、独自の境地に達したブルーメンフェルトの会心の作です。孤絶の中で悶える人間の苦悩が、焦燥感溢れる音の連なりから顕現してくるのは私だけでしょうか。

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最後に、彼の最晩年の作である『2つの小品 Op.53』をご紹介して終わりにしたいと思います。彼の最も前衛的な作品で、中後期スクリャービンの詩曲と聞き紛うようなその響きからは、その後のロシア音楽の歩んだ道の一つを垣間見ることができるのではないでしょうか。

 いかがでしたでしょうか。これを期にブルーメンフェルトの作品に興味を持って頂ければ幸いです。

(文責:細谷拓海)