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アルメニアの作曲家によるピアノ曲

アルメニアの作曲家とその代表的なピアノ作品について紹介します。

アルメニアは東ヨーロッパの国、またはアジアの国で、旧ソ連を構成していた国家の一つです。周囲の国との位置関係としては、西にトルコ、北にジョージア(旧グルジア)、東にアゼルバイジャン、南にイランといった感じです。

アルメニアに限った話ではないですが、この国には多くの作曲家がいて、膨大な数のピアノ作品が書かれています。ここでご紹介する作品は、そのほんの一部でしかありませんが、少しでも興味を持っていただけると幸いです。

目次

アラム・ハチャトゥリアン (Aram Khachaturian, 1903~1978)

アルメニアの作曲家の中では最も有名でしょう。ソ連を代表する作曲家の一人でもあります。「ガイーヌ」「仮面舞踏会」といったバレエ作品などが有名ですが、多岐にわたるジャンルの作品を手がけており、いくつかピアノ独奏のための作品も存在します。

最も演奏される機会が多いのは「トッカータ」でしょうか。「組曲」の第1曲ですが、この曲だけが知名度を得て一人歩きしています。いわゆる「トッカータ的」とでも言いますか、打楽器的な性格の作品です。

個人的にオススメなのは「詩曲」です。「詩曲」は1925年に書かれたものと1927年に書かれたものがあるそうですが、こちらは1927年に書かれたもののようです。

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他にも30分ほどかかる大作の「ソナタ」や、教育用の作品のような雰囲気の「ソナチネ」など、いくつかピアノ作品があります。

アレクサンドル・アルチュニアン(Alexander Arutiunian, 1920~2012)

「トランペット協奏曲」をはじめとして、管弦楽のための作品が人気のようですが、ピアノ曲もいくつか書いており、ハイク・メリキャン(Hayk Melikyan)というピアニストが、アルチュニアンのピアノ作品だけを集めたCDを録音しています。(メリキャンは他にもアルメニアの作曲家の作品を積極的に演奏しているようです。)

ここでは「3つの音楽的絵画」という作品を紹介しようと思います。おそらくアルチュニアンのピアノ独奏曲の中では最も人気で、全音楽譜出版社からも楽譜が出版されています。「山々を渡る風」「アララト谷の夕べ」「サスーン舞曲」の3曲からなり、描写的で演奏効果も高い作品です。ちなみに、サスーンというのは現トルコ領の地名です。

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この動画は残念ながら音質が悪いのですが、第2曲と第3曲のみであれば、以下の楽譜付き音源がオススメです。

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アルノ・ババジャニアン(Arno Babajanian, 1921~1983)

アルメニアを代表する作曲家の一人で、現代的な作風のものから映画音楽まで、その作風は多岐に渡ります。ピアノ作品もいくつか残しており、その多くはyoutubeで聴けるようです(「babajanian piano」で検索)。

個人的に特にオススメなのは「6つの描写」でしょうか。世間的にも、特に人気のある作品の一つでもあります。全体的には無調で現代的な雰囲気で、演奏効果はかなり高い作品です。「即興」「民謡」「トッカティーナ」「間奏曲」「コラール」「サスーン舞曲」の6曲からなります。

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不協和音が多いので、どうしても人を選ぶ作品ではありますが、この作品が好きな方には、「詩曲」という作品もぜひオススメしたいです。また「ポリフォニック・ソナタ」という作品も、難解ですが面白い作品です。「前奏曲」「フーガ」「トッカータ」の3楽章からなります。ポリフォニック(多声部の)という曲名の通り、第2楽章の「フーガ」(1:00~)はかなり難解ですが、第3楽章「トッカータ」(5:40~)はわかりやすく派手です。ちなみに、友人であったアルチュニアンも同名の作品を作曲しており、こちらは「インヴェンション」「コラール」「フーガ」の3楽章からなります。

その一方で、「エレジー」などのように、わかりやすく美しい作品も書いています。この作品はハチャトゥリアンが亡くなった年に書かれた、彼を追悼する思いが込められた作品です。

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コミタス(Komitas vardapet, 1869~1935)

聖職者で音楽家という、本記事の中でも異例の人物。本名はSoghomon Soghomonianで、vardapetというのはアルメニア教会における地位の名前のようです。

コミタスの作品はバルトークアルベニスの初期作品に通じるものがあり、民謡を素材としたシンプルな作品が多いです。代表作である「6つの舞曲」を紹介します。各曲のタイトルはアルメニアの舞曲の名前のようです。

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他には、アルメニア民謡を題材とした「7つの歌」などがあります。バルトークの「3つのチーク県の民謡」を思わせるような、メロディーに伴奏を足しただけのようなシンプルな作品が多いですが、それはそれで良いと思います。

エドゥアルド・バグダサリアン(Edvard Baghdasaryan, 1922~1987)

24の前奏曲」を作曲しており、ミカエル・ハイラペティアン(Mikael Ayrapetyan)というアルメニアのピアニストがCDを録音しています。ちなみに彼は他にもアルメニアのピアノ作品を集めたCDをいくつも録音しています。興味のある方はぜひ調べてみてください。

24曲の調性はショパンの同名の作品と全く同じで、第6曲(ロ短調)と第24番(ニ短調)が特に人気があるようです。第6曲はアルペジオが多用されていて派手でかつ、感傷的なメロディーがとても魅力的な一曲です。

エドゥアルド・アブラミャン(Edouard Abramian, 1923~1986)

同じく「24の前奏曲」を作曲しています。アルメニア国内では人気なのでしょうか、youtubeで調べてみると多くの作品の演奏動画が視聴できます。24曲の調性に重複はないようですが、その調性の並びは不規則なようです。

ここでは、バグダサリアンの6番と24番,アブラミャンの3番と19番を続けて演奏した動画を紹介しようと思います。演奏は先ほども紹介したミカエル・ハイラペティアン。

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サルキス・バルフダリアン(Sarkis Barkhudarian, 1887~1973)

「12のアルメニア舞曲」など、民族色溢れる小品を多く残しているようで、先ほどから紹介しているハイラペティアンがピアノ作品集を録音しています。バルフダリアンの作品は多くがyoutubeで視聴できます。(「barkhudarian piano」で検索)

いくつか聴いてみて個人的に最も気に入った、「ピアノのための小品集 第1集」の第1曲「ナズ=パー」を紹介します。シンプルでありながら民俗音楽的な情緒が感じられる、名曲だと思います。

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アレクサンドル・スペンジアリャン(Alexander Spendiaryan, 1871~1928)

アルメニアを代表する作曲家の一人で、ロシア語名のスペンジアロフ(spendiarov)で呼ばれることもあります。ロシア語のovやevは〜の息子という意味で、それがアルメニア語だとyanやianにあたるためです。

ピアノ曲はそれほど多く書いていないようですが、「エレバン練習曲」という作品が最も有名なようです。民族色豊かな2曲からなる作品で、練習曲という曲名の通り、演奏効果は高い作品となっています。

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ガザロス・サリアン(Ghazaros Saryan, 1920~1988)

ピアノ作品はそれほど多くありませんが、「3つの後奏曲」という作品が個人的にはかなりオススメです。アルス・アドゥジェミアン(Arus Adjemian)というピアニストの演奏でどうぞ。他にもアルメニアのピアノ作品を積極的に演奏しているピアニストです。

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レヴォン・チャウシャン(Levon Chaushyan, 1946~)

3つの「ピアノソナタ」や6つの「ソナチネ」などを始めとしたピアノ作品を書いています。存命の作曲家なので、これからも増えることに期待しましょう。ピアノソナタは第1番から第3番までyoutubeで聴くことができますが、第1番が特にオススメです。いわゆる近現代のカッコいい系のソナタが好きな方には、自信を持ってオススメします。

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アンドレイ・カスパロフ(Andrey Kasparov, 1966~)

チャウシャンと同じく存命の作曲家。ここでは「トッカータ」という作品を紹介します。現代の作曲家なので難解な作品も多いですが、この作品は初期に書かれたということもあって聴きやすく、演奏効果も高い作品です。トッカータ的でありながらメロディアスなのも魅力的です。

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ちなみにですが、カスパロフは2台ピアノのための編曲作品を多く残しているようです。詳しくはWikipedia(英語版)をご覧ください。

だいぶ長くなってしまったのでこの辺りで。本記事が何かしらお役に立てると幸いです。